宮崎発祥チキン南蛮の「南蛮」とは？歴史から作り方まで完全解説

チキン南蛮おぐら（宮崎市）

宮崎のソウルフード「チキン南蛮」を食べるとき、ふと疑問に思ったことはありませんか？なぜ「南蛮」という名前がついているのでしょうか。

実は私も宮崎出身として、子どもの頃からチキン南蛮を食べて育ったのですが、この「南蛮」の意味について詳しく考えたことはありませんでした。でも調べてみると、そこには戦国時代から続く興味深い歴史があったんです。

今回は、チキン南蛮の「南蛮」の由来から、宮崎での本場の味、そして美味しい作り方まで、地元民だからこそ知っている情報も含めて詳しく解説していきますね。

チキン南蛮の「南蛮」とは何を意味するのか

チキン南蛮の「南蛮」とは、もともと戦国時代に来日したポルトガル人や、その文化を表す言葉なんです。彼らのもたらした食文化の中に「南蛮漬け」があり、これは唐辛子入りの甘酢に食材を漬けてつくられるもので、これに鶏肉を用いて料理されたため、「チキン南蛮」と呼ばれるようになったといわれていると農林水産省でも説明されています。

歴史好きの方なら「南蛮渡来」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんね。まさにその「南蛮」と同じ意味で、ポルトガルやスペインから伝来した文化や技術、食べ物を指していました。

つまり、チキン南蛭は単なる鶏料理ではなく、戦国時代から受け継がれてきた日本とポルトガルの文化融合の産物と言えるでしょう。

南蛮漬けからチキン南蛮への進化

南蛮漬けは、もともと魚介類を唐辛子入りの甘酢に漬け込む料理でした。アジの南蛮漬けや鯖の南蛮漬けなど、現在でも日本全国で愛され続けています。

この南蛮漬けの調理法を鶏肉に応用したのが、宮崎県延岡市の洋食店だったんです。昭和30年代に延岡市内の洋食店「ロンドン」で賄い料理として作られていた、揚げた鶏肉を甘酢に漬ける料理が原型となっています。

当時は「鶏から揚げ甘酢漬け」と呼ばれていましたが、南蛮漬けの手法を使っていることから「チキン南蛮」という名前が定着していったのです。

宮崎県延岡市での誕生秘話

チキン南蛮発祥には、実は2つの有名なお店が関係しています。延岡市の「直ちゃん」と宮崎市の「おぐら」です。両店とも延岡市にあった洋食店「ロンドン」で修行した料理人が開いたお店なんです。

「直ちゃん」の創業者である後藤直さんは、昭和40年頃に居酒屋「直ちゃん」を開業後、目玉商品を探して「ロンドン」に弟子入りし、チキン南蛮の原型を目にしたと言われ、昭和45年頃メニューとして売り出したとされています。こちらのチキン南蛮は、タルタルソースを使わず、甘酢だけでいただくシンプルなスタイルです。

一方、「おぐら」では甲斐照幸さんが昭和40年頃に発売し、42年には人気を博していたチキン南蛮を考案しました。こちらは現在一般的になっているタルタルソース付きのスタイルです。

興味深いのは、タルタルソースを思いついたきっかけです。スルメイカにマヨネーズをつけて食べるところから発想したというエピソードが残っています。宮崎の人なら分かると思いますが、確かにスルメにマヨネーズって美味しいですよね（笑）。

本場宮崎のチキン南蛮の特徴

宮崎県外でチキン南蛮を食べて「あれ？なんか違う」と感じたことはありませんか？実は本場宮崎のチキン南蛮には、他県とは異なる特徴があります。

衣の違い

本場のチキン南蛮は、鶏の唐揚げとは全く違う調理法を使っています。片栗粉ではなく小麦粉をまぶし、その後に溶き卵を衣にして揚げるのが特徴です。これにより、甘酢を吸い込みやすく、口当たりも良くなります。

甘酢への漬け込み

揚げた鶏肉を熱い甘酢にしっかりと漬け込むのが本場流です。単純に甘酢をかけるだけでなく、漬け込むことで鶏肉の内部まで味が染み込みます。

鶏胸肉の使用

もともとは、むね肉を使用するのが一般的だったとされており、現在でも宮崎県内の多くの店では鶏胸肉を使用しています。パサつきやすい胸肉を、甘酢漬けとタルタルソースでジューシーに仕上げる技術が宮崎の料理人の腕の見せ所なんです。

チキン南蛮の作り方（本場宮崎風）

それでは、本場宮崎風のチキン南蛮の作り方をご紹介します。私の家でも祖母から教わったこの作り方で、いつもチキン南蛮を作っています。

材料（4人分）

鶏肉
– 鶏胸肉 2枚（600g程度）
– 塩・こしょう適量
– 小麦粉適量
– 卵 2個

甘酢ダレ
– 酢大さじ4
– 砂糖大さじ3
– しょうゆ大さじ2
– みりん大さじ1

タルタルソース
– ゆで卵 2個
– 玉ねぎ（みじん切り） 1/4個
– マヨネーズ大さじ4
– 塩・こしょう少々
– レモン汁小さじ1

作り方

下準備
鶏胸肉は厚みを均一にするため、厚い部分を開いて平らにします。塩こしょうで下味をつけ、30分ほど置いておきましょう。この間にタルタルソースを作っておくと効率的です。

タルタルソースの準備
ゆで卵をフォークで粗めに潰し、水にさらして辛味を抜いた玉ねぎのみじん切りと一緒にマヨネーズで和えます。塩こしょう、レモン汁で味を調整して完成です。

甘酢ダレの準備
小さな鍋に甘酢ダレの材料を全て入れ、中火でひと煮立ちさせます。砂糖が完全に溶けたら火を止め、温かい状態で保温しておきます。

鶏肉の調理
下味をつけた鶏肉に小麦粉をまぶし、溶き卵をたっぷりと絡めます。170度の油でゆっくりと揚げ、中まで火を通します。胸肉なので火の通りには注意が必要です。

仕上げ
揚げた鶏肉をすぐに温かい甘酢ダレに漬け込みます。最低でも5分間はしっかりと漬け込むことで、味が染み込みます。皿に盛り付け、たっぷりとタルタルソースをかけて完成です。

なぜタルタルソースなのか？その由来

チキン南蛮にタルタルソースが合わせられるようになった背景にも面白い歴史があります。

タルタルソース自体は、もともとフランス料理のソースで、タルタル人（中央アジアの遊牧民族）に由来する名前とされています。マヨネーズをベースに、ゆで卵やピクルス、ケッパーなどを加えたソースです。

宮崎でチキン南蛮にタルタルソースを合わせるようになったのは、前述のとおりスルメにマヨネーズをつけて食べるところからヒントを得たとされています。甘酢の酸味とタルタルソースのまろやかさが絶妙にマッチし、現在では欠かせない組み合わせになっています。

鴨南蛮やカレー南蛮との関係

「南蛮」という名前がつく料理は、チキン南蛮以外にも鴨南蛮やカレー南蛮がありますね。これらの「南蛮」も同じ語源なのでしょうか？

鴨南蛮の場合、江戸時代から続く伝統的なそば料理で、鴨肉とネギ（昔は「南蛮」と呼ばれていた）を使った料理です。こちらの「南蛮」は主にネギを指していました。

カレー南蛮も同様に、ネギが入ったカレーうどん・そばを指す場合が多いです。

つまり、チキン南蛮の「南蛮」は南蛮漬けから、鴨南蛮やカレー南蛮の「南蛮」はネギから来ているという、同じ「南蛮」でも由来が異なる興味深い例なんです。

宮崎県内での地域差

同じ宮崎県内でも、地域によってチキン南蛮に微妙な違いがあります。

延岡市では、元祖の「直ちゃん」のように甘酢だけでいただくシンプルなスタイルと、「おぐら」のようにタルタルソースをたっぷりかけるスタイルの両方が楽しめます。延岡市では2009年に「直ちゃん」と「おぐら」双方の関係者や大学関係者、料理研究家などによる「チキン南蛮発祥の地宣言シンポジウム」が開催されたこともあり、チキン南蛮への愛着は特別なものがあります。

宮崎市内では、タルタルソース付きが主流で、各店舗が独自のタルタルソースでしのぎを削っています。私がよく行く「おぐら本店」では、手作りのタルタルソースが自慢で、マヨネーズから作っているこだわりぶりです。

県南の日南市や串間市では、甘酢にケチャップを加える店もあり、より甘めの味付けが特徴的です。

チキン南蛮が全国に広まった理由

宮崎発祥のチキン南蛮が、なぜ全国的な人気料理になったのでしょうか。

最大の転換点は、九州発祥の弁当チェーン「ほっかほっか亭」（現在のほっともっと）がチキン南蛮弁当を全国展開したことでした。手軽にチキン南蛮を楽しめるようになったことで、全国の人々に知られるようになりました。

また、2007年には農林水産省による農山漁村の郷土料理百選の「御当地人気料理特選」にも選定されたことで、正式に宮崎の郷土料理として認知されました。

現在では、コンビニエンスストアや持ち帰り弁当チェーン店でも定番メニューとなり、日本全国どこでもチキン南蛮を楽しめるようになっています。

本場で味わいたいチキン南蛮の名店

宮崎を訪れる機会があれば、ぜひ本場のチキン南蛮を味わってみてください。

延岡市では「元祖チキン南蛮直ちゃん」と「おぐら出北店」が定番です。甘酢だけのシンプルなスタイルと、タルタルソース付きの両方を食べ比べてみると、チキン南蛮の奥深さを実感できます。

宮崎市内なら「おぐら本店」「グリル爛漫」「しゃちんぼう」などが有名です。特に「おぐら本店」のチキン南蛮は、週末になると長蛇の列ができるほどの人気です。

地元民としてのおすすめは、実は穴場の「クレイトンハウス」です。観光客にはあまり知られていませんが、地元の人に愛され続けている隠れた名店です。

家庭でのチキン南蛮文化

宮崎県では、チキン南蛮は外食だけでなく家庭料理としても根付いています。

県内のスーパーマーケットでは、チキン南蛮用のタルタルソースや南蛮漬けのタレが数多く販売されており、各家庭でタルタルソースを作るなど宮崎のご当地料理として、また家庭料理として広まっているのが現状です。

私の家でも、母がよくチキン南蛮を作ってくれました。学校から帰ってきて、チキン南蛮の匂いがしていると「今日はラッキー！」と思ったものです。運動会や家族の誕生日など、特別な日のメニューとしても定番でした。

チキン南蛮に合う飲み物

本場宮崎でチキン南蛮を食べるとき、どんな飲み物を合わせるか悩みますよね。

地元では、やっぱりビールが定番です。甘酢の酸味とタルタルソースの濃厚さに、キレのあるビールがよく合います。宮崎といえば焼酎も有名ですが、チキン南蛮には芋焼酎のお湯割りやロックよりも、レモンサワーやハイボールの方が相性が良いと個人的には思います。

ノンアルコールなら、烏龍茶やウーロンハイ（ノンアルコール）がさっぱりして良いですね。コーラも意外と合いますよ。甘酢の酸味とコーラの甘さが絶妙なハーモニーを奏でます。

宮崎観光とチキン南蛮

宮崎を観光で訪れる方にとって、チキン南蛮は必食のグルメです。宮崎市観光協会でも、宮崎の代表的グルメとしてチキン南蛮を紹介しています。

青島神社への参拝の後、鵜戸神宮への観光の途中、高千穂峡の帰りなど、どのタイミングでも美味しいチキン南蛮を味わうことができます。宮崎の温かい人柄と一緒に、心に残る旅の思い出になることでしょう。

よくある質問（Q&A）

Q1. チキン南蛮と鶏の唐揚げの違いは何ですか？

A1. 大きな違いは衣と調理法です。鶏の唐揚げは片栗粉や小麦粉を衣にして揚げますが、チキン南蛮は小麦粉をまぶした後、溶き卵を衣にして揚げます。また、揚げた後に甘酢に漬け込むのがチキン南蛮の特徴で、これにより独特の食感と味わいが生まれます。

Q2. なぜ宮崎県延岡市が発祥の地なのですか？

A2. 昭和30年代に延岡市の洋食店「ロンドン」で賄い料理として作られていた、揚げた鶏肉を甘酢に漬ける料理が原型となっているからです。その後、「直ちゃん」と「おぐら」という2つの名店が、それぞれ独自のスタイルでチキン南蛮を発展させ、全国に広まっていきました。

Q3. 家庭で作るときのコツは何ですか？

A3. 一番のコツは、揚げた鶏肉を熱いうちに甘酢に漬けることです。冷めてから漬けても味が染み込みにくくなります。また、胸肉を使う場合は、厚みを均一にして、火の通りを良くすることが大切です。タルタルソースは手作りすると、格段に美味しくなります。

Q4. タルタルソースなしのチキン南蛮もありますか？

A4. はい、あります。発祥の地延岡市の「直ちゃん」では、タルタルソースを使わず、甘酢だけでいただくシンプルなチキン南蛮を提供しています。こちらも元祖の味として愛され続けています。甘酢の酸味と鶏肉の旨味をダイレクトに感じられるスタイルです。

Q5. 宮崎県以外でも本格的なチキン南蛮は食べられますか？

A5. 最近では、宮崎出身者が営む宮崎料理店や、こだわりを持った店主が本格的なチキン南蛮を提供する店が全国各地に増えています。ただし、本場の味を求めるなら、やはり宮崎県内、特に発祥の地である延岡市で味わうのが一番です。甘酢への漬け込み時間や、タルタルソースの作り方など、細かい技術の違いが味に大きく影響します。